円形脱毛症

円形脱毛症とは、コインのように円く脱毛する単発型が基本ですが、多発することもあります。
時に頭全体の毛が抜けたり、さらに全身の毛が抜けることもあります。頭全体のとき全頭型、全身のとき汎発型といいます。
少ない型ですが、頭髪の生え際が帯状にぬけるとき蛇行型といいます。
原因
円形脱毛症の原因
円形脱毛症の脱毛部では、どの毛穴でも毛包が縮んで休止期のようになっています。
その原因は成長期の毛包がリンパ球の攻撃を受けて壊されてしまうからであると言われています。どうして、自分のリンパ球が自分の毛包を攻撃するのか、その理由は完全には解明されていませんが、遺伝子学的に、現在では毛の毛包を標的にした自己免疫疾患だと考えられています。リンパ球の攻撃が抑えられれば元通りの毛が生えてきます。精神的なストレスが誘因になることもありますが、特に誘因のない場合も多くあります。
また、20%程度の方に家族内での発症が認められます。約4分の1のかたは15歳以下で始まるといわれています。アトピー性皮膚炎や甲状腺の疾患で併発することもありますが、直接的な関係はありません。
遺伝
10~30%の頻度で家族内での発症が報告されています。アトピー性皮膚炎の方にも合併しやすいと言われています。また、円形脱毛症の原因となる遺伝子がいくつか報告されています。
自己免疫
本来、細菌やウイルスなどの有害なものから身を守るためにある免疫系が誤作動を起こし、誤って自分自身の細胞を攻撃してしまうことを「自己免疫」といいます。円形脱毛症は毛包、特に成長期毛の毛球部周囲をターゲットとする、自己免疫性疾患です。円形脱毛症の患者さまには他の自己免疫疾患の合併が多いこともわかっています。
精神的ストレス
円形脱毛症の患者さまの約20%は精神的ストレスの合併があると言われています。一般的に、ストレスになる出来事の最中に毛が抜けるのではなく、少し時間が経ってから脱毛斑がみつかることが多いです。ストレスが円形脱毛症を引き起こすメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、ストレスにより炎症性サイトカインが多くつくられ、毛包へのTリンパ球の攻撃が強まることや、毛包のアポトーシス進行が原因と言われています。
毛は時期がくると(大体4~7年くらい)成長が止まって抜け落ちますが、アポトーシスが進行するとまだその時期が来ていないのに抜け落ちてしまい、脱毛が起こってしまいます。円形脱毛症は、どの年齢でも起こり、性差もありません。
脱毛を起こす病気には、円形脱毛症以外にも甲状腺機能異常症や全身性エリテマトーデスなどの膠原病(こうげんびょう:自己免疫疾患)、貧血や亜鉛不足、過度のダイエットによる栄養不足、梅毒や頭部白癬といった感染症もあり得ます。
脱毛斑が多発していたり、広範囲にあったりする場合はそれらの病気が隠れていないかチェックすることも大切です。血液検査などで確認し、病気が見つかった場合はそちらの治療も併せて行います。
日常生活の注意点
・過度なストレスにより「自律神経」のバランスが崩れると頭皮の血行が悪くなり、抜け毛が増える傾向にあります。
・ストレスを感じているようなら、ストレス発散方法を見つけてみましょう。
・不規則な生活(睡眠不足)はできるだけ改善しましょう
治療方法
外用療法
ステロイド外用剤
炎症を抑える効果があります。
塩化カルプロニウム(フロジン液®)
塩化カルプロニウムは副交感神経刺激剤です。副交感神経が刺激されると、毛細血管が拡張し血流量を増やすことで毛包に栄養や酸素を運び、その結果発毛を促す効果があります。
ミノキシジル(リアップ®)
ミノキシジルも血管拡張効果があり、それにより発毛効果が期待できます。ただし、ミノキシジルの外用剤は日本では円形脱毛症には保険が適応されていません。
他の局所療法
ステロイドの局所注射
炎症や免疫機能を抑える効果のあるステロイドを、脱毛斑に注射で注入する治療法です。ケナコルトAというステロイドの混濁液と局所麻酔薬を混合したものを、注射器で直接脱毛部の皮膚に注入。発毛効果が証明されており、多くの症例では1ヵ月程度で発毛が認められます。
ただし、注入には痛みを伴い、また1回に使用できる薬剤に限りがあるため、脱毛斑が小さい、あるいは数が少ない場合のみです。長期間行うとステロイドの副作用により皮膚が薄くなることがあります。また、15歳以下の小児に適応はありません。
局所免疫療法
かぶれを起こす特殊な薬品(SADBE、DPCPなど)を脱毛部に塗って、弱いかぶれの皮膚炎を繰り返し起こさせる治療法です。1~2週に1回行います。人工的にかぶれ(接触皮膚炎)を起こして発毛を促す方法です。比較的広範囲に脱毛している患者さまが対象となります。
かぶれはSADBEという化学物質を皮膚に塗って誘発。Tリンパ球の攻撃対象を毛包から、かぶれて炎症を起こした頭皮表面に替えることで毛包へのダメージを軽減させるというメカニズムです。
紫外線(PUVA)療法
紫外線が持つ「免疫の働きを調節する作用」を活用し、尋常性乾癬や白斑、掌蹠膿疱症、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症などの治療に用いられています。
1.NB-UVB(narrow band UV-B):皮膚科領域の光線治療で用いられるのは主に中波紫外線というUV-Bの波長です。UV-Bの波長から有害領域をカットし、治療に有効な領域のみを抽出することで、有効かつ安全な治療ができるようになりました。NB-UVBには過剰になったTリンパ球の働きを整える効果があります。
雪状炭酸圧抵療法
脱毛斑に液体窒素あるいはドライアイスをあてて、低温で刺激して発毛を促す方法です。
誤作動を起こした免疫細胞の働きを抑えて、毛髪の再生を図る冷凍凝固療法を行うこともあります。ただし、効果は限定的とされており、保険適応もありません。
全身療法(内服療法)
脱毛面積が25%未満の軽症の場合には経過観察のみで7割が1年以内に改善がみられるといわれます。
脱毛面積が50%以上に及ぶ重症の場合、内服薬のオルミエントによる治療も可能です。
頭や身体全体の脱毛がみられる場合にはかつら等の使用も選択肢にはいります。
セファランチン
アレルギー反応を抑制する作用や、血流を促進する作用などがあります。
グリチロン
炎症やアレルギー反応を抑制する作用があります。
抗ヒスタミン薬
アレルギー反応を抑制する作用があり、特にアトピー性皮膚炎の合併がある人は使用が推奨され、第2世代の抗ヒスタミン薬が使用されます。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)
ステロイドの内服療法は、難治性の場合にかなり効果的なことがありますが、数ヵ月以上続けると様々な副作用が起こり得ます。2~3ヵ月で内服は中止します。また、子供には成長障害が起こるので使用できません。
JAK阻害剤(オルミエント®・リットフーロ®)
オルミエント®
オルミエント(バリシチニブ)は、円形脱毛症の発症に関与するサイトカインの働きを抑え、免疫細胞による毛根への攻撃を抑える薬です。
オルミエントは国際的な臨床治験で治療効果が証明された円形脱毛症に対する初めての内服治療薬であり、15歳以上の慢性期の円形脱毛症の患者さまで、症状が出始めて半年以上経過して安定しており、脱毛面積が被髪頭部全体の50%以上の方に内服治療ができます。
治療効果は3~6ヵ月程度で実感することが多いと言われています。
リットフーロ®
リットフーロ(リトレシチニブ)は、経口JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害剤です。
円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21等の共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで、治療効果を発揮します。
12歳以上の患者さまで、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治性の場合が対象となります。
ステロイド点滴療法
難治性の場合に使用することがありますが、効果のない症例もあります。副作用の発現に注意が必要です。
赤色LED

赤色LEDを頭皮に照射して発育を促す治療法です。
「男性型および女性型脱毛症ガイドライン」によれば、男性型・女性型脱毛症に対する推奨度は『B(行うようすすめる)』と認められています。赤色LEDは毛母細胞の先端にある毛乳頭に達するほど深く届く光で、これにより毛乳頭細胞が刺激され、毛の発育に必要な細胞増殖因子(FGF-7,IGF-1,VEGF,HGF)や神経伝達物質、栄養が毛母細胞に届きます。この結果、毛母細胞が活性化して抜け毛の抑制や新しい毛の発毛を促す働きが確認されています。
赤色LED治療では、狭帯域の赤色LED光を照射して毛乳頭細胞を活性化させます。治療時間はおよそ10~20分程度で、継続すると効果が上がると考えられています。
赤色LED治療の効果
赤色LEDを1回20分1日3回使用することで、外用薬や経口薬・注射などの併用なしで著明な改善がみられた症例がアデランス社より報告されています。
使用方法は1日1回以上の使用を推奨し、生活リズムに合わせてお使いいただけます。使用時間は1回あたり20分です。
安全性の高さ
痛みや熱はほとんどなく感じません。日焼けややけどの心配もなく、副作用もほとんどありません。ダウンタイムもないため、照射直後からシャワーを浴びたり髪を洗うことができます。
リアップなどのミノキシジル外用薬や、プロペシア(フィナステリド)、ザガーロ(デュタステリド)といった内服薬と併用することも可能です。
男性でも女性でも使用可能
男性のAGA治療薬として有効性の高さが認められているプロペシア(フィナステリド)、ザガーロ(デュタステリド)は、女性の服薬が禁忌とされていますが、赤色LEDならば性別や年齢にかかわらず治療できます。
治療のハードルが低い
赤色LEDは装置が小型化されているため、患者さまご本人が操作して日常的に使うことができる製品が発売されています。
ドライヤーの吹き出し口にLEDが搭載されていたり、帽子の中に収納設置して使うなど、日常生活の中に組み込めば特段意識せずに治療を継続できます。
赤色LED治療のデメリット
機器が高価:治療効果が期待できる専門の機器です。購入には別途費用がかかります。
よくあるご質問
ストレスが原因でしょうか?
何か精神的ストレスがあったときに脱毛が始まってしまう患者さまがおられます。しかし、多くの人は関係なく始まっていることが多いです。なぜリンパ球の炎症が始まるのかが問題ですが、ある人では精神的ストレスがきっかけ、つまり原因と言うよりは誘因になっているのかもしれません。
シャンプーはどんなものを使ったらいいですか?
過度に負担のかかるものでなければ、市販されているシャンプーを使っていただいても大丈夫です。
気になるようでしたら現在では、オーガニックシャンプーなど頭皮に優しいものも多くでています。
頭皮を清潔に保つことを心掛けましょう。
カラーやパーマはしても大丈夫ですか?
脱毛している時期のパーマやカラーリングは頭皮に大きな負担がかかりますので避けてください。
生活で気をつけることはありますか?
まずは、バランスのとれた食事をとるように心掛けましょう。そして、睡眠をたっぷり取りゆっくり身体を休めてください。また、ストレスを溜めないこともとても大切です。
そのためにも趣味の時間を作ったり、何も考えない時間を作ったり、運動をするなど自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
ウィッグを使用しても大丈夫ですか?
ウィッグは、治療の妨げにならない医療用の製品であれば使用しても問題ありません。精神的な苦痛を和らげるためにも、ウィッグは必要です。