多汗症

多汗症は、人間のエクリン汗腺という汗を出す組織から、通常以上の量の汗が出る症状のことをいいます。エクリン汗腺は、主に体温調節のために水分の多い汗を分泌します。
多汗症の症状である多量の汗は、主にエクリン汗腺から出ています。具体的には、暑くないのに汗が出てしまう、人前で緊張して汗をかいてしまう、本を読んでいる時に触っているページが汗で濡れてしまう、などが考えられます。
また、多汗症の人が汗をかく場所は、主に手のひら、脇、顔、頭部、足の裏などが多いといわれています。多汗症には、全身に汗が増加する全身性多汗症と身体の一部に汗が増える局所性多汗症があります。

全身性多汗症の場合は、甲状腺機能亢進症や糖尿病などが、局所性多汗症の場合は、精神的な緊張や末梢神経の損傷などが原因としてあげられます。
このように、何らかの疾患によって引き起こされる多汗を、「続発性多汗症」といいます。その一方で、全身性多汗症、局所性多汗症ともに、原因が不明な場合もあります。これを「原発性多汗症」といい、比較的若い世代の方が発症しやすい傾向にあります。特徴は、家族に同様の症状がみられること、寝ている間は多量の汗をかかないことなどです。
原発性局所多汗症は手のひら、足のうらや脇という限局した部位から両側に過剰な発汗を認める疾患です。
~ワキ汗の基礎知識~
このような症状はありませんか?
- シャツのワキの部分に汗ジミができて人目が気になり、電車で吊り革を持つことをためらったり、人前で発表する時、とても緊張したりする。
- ワキから汗がツーっと流れ落ちる不快感で勉強や仕事に集中できない。
- 汗ジミが気になって好きな服を着ることができない。
- 制汗スプレーや汗拭きシートが手放せない。
~原発性腋窩多汗症とは~
原発性局所多汗症の中でも特に「原発性腋窩多汗症」は、日常生活に支障をきたすほど多量のわきの汗が、明らかな原因がないまま、6ヵ月以上見られ、以下の6つの症状のうち、2項目以上当てはまる場合に診断されます。
原発性腋窩多汗症の診断基準
・最初に症状が出るのが25歳以下である
・左右両方で同じように発汗がみられる
・睡眠中は発汗がみられない
・1週間に1回以上の多汗の症状が出る
・家族に同症のかたがいる
・わき汗によって日常生活に支障をきたしている
原因
多汗症の原因には様々なものがあります。
ストレス、緊張、不安などの精神的な要因、また食生活、ホルモンバランスの乱れ、遺伝、肥満、病気などが挙げられます。
発汗の原因が突き止められる「続発性多汗症(二次性多汗症)」の場合、全身性の病気(感染症・神経性疾患・糖尿病・低血糖・内分泌代謝異常など)が原因となる場合のほか、外傷や悪性リンパ腫といった局所的な神経障害が原因となる場合があります。また、解熱剤や向精神薬、ステロイドといった服薬中の薬の副作用などによるものも考えられます。
一方で、「原発性多汗症」と言われるものは、発汗量が異常に多くなる原因が特に明らかにできていない状態を言います。脳になんらかの異常があり、交感神経が優位になりやすいため発汗が促進されているとの考えもありますが、まだはっきりと共通の見解があるとはいえません。
また、原発性多汗症の特徴として、社会的な活動範囲が広く、生産性のある年代における発症率が高いことが挙げられており、対人ストレスなど精神的に苦痛に感じる機会が多い人ほど発症しやすい傾向にあると考えられます。
このほか、家族・親族内で多汗症の人がいるケースが国内・海外の研究で多く報告されていることから、遺伝性の可能性が高いのではないかという指摘もあります。
全身性多汗症の原因
温熱性発汗
運動、高温環境、発熱など
内分泌・代謝性発汗
更年期障害、甲状腺機能亢進症、糖尿病、肥満症など
神経障害による発汗
パーキンソン病など
薬剤副作用による発汗
向精神薬、睡眠導入薬、非ステロイド抗炎症薬、ステロイド薬などの服用
感染症による発汗
結核、敗血症など
特発性発汗
原因不明
局所性多汗症の原因
精神性発汗
精神的緊張によるもの(手掌、足底、腋窩など)
味覚性発汗
辛い物を食べた時(顔面)
神経障害による発汗
胸部交感神経切除後など(体幹)
その他
皮膚疾患による局所多汗症など局所性多汗症の最も多い原因は、精神的緊張によるものです。また、手のひらと足底以外の局所性多汗は、神経疾患が原因のケースが多いです。多汗部位が左右非対称になっている場合は、さらにその可能性が高いといえます。
なお、この他に薬の副作用によって多汗が起こるケースもあります。抗うつ剤、抗不安薬、内服薬の非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド剤などを処方されている場合は、薬の影響の可能性が大きいので、一度かかりつけの医師に確認してみましょう。
日常生活の注意点
食生活を見直しましょう
辛いものや酸味の強いものは、交感神経の働きを優位にするため、食べると汗をかきやすくなってしまいます。
なるべく刺激物の過剰な摂取はお控えください。また、カフェインも刺激物と同様に交感神経を優位にするので、コーヒーや紅茶などは過剰に摂取しないように気を付けましょう。そして何より、栄養バランスの整った食事をするように心がけてください。
肉類や動物性脂肪の過度の摂取は控えましょう。夏などに暑いからといって冷たいものを摂りすぎないこと。なるべく楽しみながら食事をとるよう心がけるなど、ぜひ気を付けてみてください。
生活習慣の改善を
過度な飲酒量を守ったり、喫煙を控えたり、適切な時間帯に十分な睡眠をとったり…。こうした生活習慣の改善も、交感神経を優位にしないため、つまり多量の汗をかかないためには必要不可欠です。
リラックスできる時間をつくりましょう
心と身体をリラックスさせられる時間をつくり、上手にストレスを解消してあげることも、多汗症の予防には有効です。緊張状態から解き放たれる時間を大切にしましょう。
例えば、スポーツやカラオケ、またアロマテラピーなどストレス解消につながるような楽しみを見つけましょう。
~多汗症に効果的な入浴法とは?~
ワキガや体臭など体の臭いも気になっている方の場合は、お風呂の入り方にも工夫をしてみてください。
汗に臭いのある人は、普段運動をあまりしない人や、エアコンの効いた室内など体温調節をあまり必要としない環境にいることが多い人、また入浴がお風呂に浸からずシャワーだけという人に多いといわれています。
多汗症対策や体の汗の臭いに有効的とされる入浴の仕方は、十分な時間、湯船に浸かり汗を出すという方法です。例えば、ひざ下からの足とひじ下からの手をお湯につける高温手足浴、半身浴、また全身浴といった入浴方法で汗を出すとサラサラなにおいの無い汗が出ますこういう汗は良い汗といわれ、体臭や多汗症対策として効果が期待できます。
このように、発汗を促す入浴法を継続的に繰り返すことによって、汗腺の機能が改善したり、体の抵抗力もつくようになります。またお風呂にゆっくりと入ることでリラックス効果が得られ、交感神経と副交感神経のバランスが整い、自律神経の働きが改善されることで、多汗症の対策につながります。
~多汗症と運動~
ウォーキングやジョギング、水泳(スイミング)などの有酸素運動を過度に行うことによって、肥満の防止にもなりますし、運動不足の解消によって体臭予防にもつながります。身体を動かしてストレスを発散するのもおすすめです。
治療方法
外用療法
エクロックゲル(ソフピロニウム臭化物)
原発性腋窩多汗症(ワキ汗)の治療薬で、初の保険適応の塗り薬です。
わきの汗は、エクリン汗腺という種類の汗腺から出ていますが、この汗腺は交感神経から出るアセチルコリンという物質を介したシグナルを受け取って汗を出します。エクロックゲルは、抗コリン作用を有し、このアセチルコリンによるシグナル伝達(汗を出す指令)をブロックし、過剰に出る汗を止めます。お身体への侵襲も少なく、1日1回、両わきに塗るだけのお薬です。
※エクロックゲルをお使いになれないかた:緑内障、前立腺肥大症をお持ちのかた
※副作用:湿疹・皮膚炎・かゆみ・口の渇き・光をまぶしく感じる
ラピフォートワイプ2.5%(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)
原発性腋窩多汗症(ワキ汗)の治療薬で、汗腺細胞のムスカリン受容体に結合し、アセチルコリンの作用を阻害することで発汗を抑制します。
1回使い切りのワイプ製剤で、簡便かつ衛生的に使用できます。1日1回、1包に封入されている不織布1枚を用いて薬液を両わきに塗布します。
※ラピフォートワイプをお使いになれないかた:緑内障、前立腺肥大症をお持ちのかた
※副作用:湿疹・皮膚炎・かゆみ・口渇・羞・散瞳・霧視・ドライアイ・排尿困難
塩化アルミニウム液・軟膏
塩化アルミニウムは汗の出口を塞ぐ働きがあり、発汗を抑制する効果があります。効果が見られない場合は、濃度を高めていくことも可能です。
手のひらや足の裏の場合は、お薬を塗った後に、さらにその上から被覆剤でおおって密着させることで効果が高くなります。
1薬剤で効果が不十分な場合、他の治療薬と併用したり、複数の治療を組み合わせたコンビネーション治療を行う場合もあります。
詳しい塗り方は医師におたずねください。
内服療法
抗コリン剤を使用します。
唯一保険適応があるのは臭化プロバンテリン(プロ・バンサイン®️)です。効果を出したい時間帯に、ピンポイントで内服します。
その他、オキシブチニン(ポラキス®️)、コハク酸ソリフェナシン(ベシケア®️)などがありますが、効果にはばらつきがあります。
口渇や眠気などの副作用が見られることがあります。
他に漢方薬を併用する場合もあります。
ボトックス注射(ワキ・手のひら・足の裏)

ボツリヌス菌が産生する物質を皮膚に注入することで、交感神経を抑制し、一時的に汗腺の働きを防止するという方法です。
A型ボツリヌス毒素(BT-A)は交感神経から発汗の指令を出すアセチルコリンを抑制します。手のひらや腋窩に局所注射しますと1週間ほどで汗の量が減少し、約4~6ヵ月間持続します。
この治療法では、注射時の痛みと手の筋力低下がありますが、痛みに対しては局所麻酔やアイスパックでの冷却を併用します。ハシやペンが持ちにくいなどの筋力低下は通常一過性で自然に治ります。
夏に汗をかきやすい場合、毎年4~6月頃にお受けになると、ひと夏を快適に過ごすことが出来ます。詳しくは医師にお尋ねください。
毎年4~6月頃がおすすめ
ひと夏を快適に過ごせる
手術療法
汗を出す指令を伝える神経を切断します(交感神経遮断術)。
他の治療法で効果が見られない場合、医師と十分相談した上で、患者さまの強い希望がある場合に行います。
手術は最終的な手段として考えましょう。
手術による副作用として、手術した箇所以外の場所からの汗の量が増える(代償性発汗)可能性があります。
手のひらの多汗症のみ、内視鏡的胸部神経遮断術(ETS)があります。
他の治療法で効果がない場合に適応となります。
医療機器による施術
マイクロ波・レーザー・フラクショナルマイクロニードル高周波・高密度焦点式超音波等
機器による多汗症の治療は、汗腺の大部分が存在する真皮深層から皮下組織浅層をそれぞれの方法により加熱することで、汗腺を変性・凝固させ、発汗を抑制するものです。
その他、精神心理療法として、不安や緊張、ストレスなどが原因とされる場合、精神療法という方法が効果的な場合があります。病院で精神科や心療内科を受診し、精神療法を施すことにより、汗の抑制を促すという治療方法です。